カスタマー平均評価: 3.5
創発現象を概念的に理解するのに適した本 創発現象を概念的に理解するのに適した本。数式を一切使わず、数多くの例を引き合いに出しながら説明が進むので、創発という現象に共通の特徴がよく理解できる。一方で、創発している状態と、していない状態の違いや、創発に近い/遠い状態、創発現象を定量的に観察する方法などは範囲外。ウィーナー、ホランド、セルフリッジ、ゴードン、クルーグマン、ヒリスといった、創発や自己組織化といった分野でよく知られている人々の仕事が幅広くまとまっているのもよいと思う。訳者の訳注には、的を得たものも得ないものもある。訳注を楽しむか、不快に思うかは読者によって分かれるところだと思う。ただ、訳者の仕事というのは、本の内容を素直に別の言語に置き換えることであって、内容に合いの手や茶々を入れることではないのでは、とも思った。 「創発」って何?がわかります 蟻やアメーバの生態、脳の作り、インターネットの網目、人間社会のあり方までを自己組織化ネットワークをキーワードに発想がやや飛躍的につなげております。複雑系の研究は単独の学問の1ジャンルではなく、学問と学問の間(学際?)に意味があると思われるため、このような研究により発想が拡がるとよいと思います。 創発という言葉を知らなければぜひ たくさんの要素が互いに交流しだすと、各要素のレベルからは思いもよらないことが生まれることがあるという創造力についての科学読み物。自己組織化、複雑系、カオスなどに関連する話を、副題に書いてある蟻・脳・都市・ソフトウェアの話を中心に紹介している。 理論面を考察して話を進めるというよりは、具体例を次々と紹介しているので、(物足りない人もいるかもしれないが)創発という言葉を知らなかった私にはとても読みやすかった。迷路を解く粘菌や工業都市マンチェスターのような都市の話が特によかった。 (1)創発に気づく前の人々が同種の現象をどう観察していたのか? (2)創発に気づいた人々がどんな発見をしたのか? (3)創発を自覚した人々がどんなことをしようとしているのか? という三段階に分けて語っていて、前二つの段階の話が興奮するほどおもしろい。しかし、最後の段階の話は尻すぼみの感があって、将来の見通しがよくわからない。クリントンのスキャンダルが放送局上層部の意図を離れて過熱報道されたことを、創発の制御不能の側面だといわれてもピンとこない。訳注のつっこみも最後の段階に多いよう。 とはいえ、最適なアルゴリズムを考え出すメタアルゴリズムの話は素直にすごいと思う。ひとつひとつの要素は大したことがないものでも、複雑なものが生まれることに可能性が感じられる。現在進行形の話が大量に蓄積された頃にこの本の続きが読みたい。 懐と時間に余裕があれば、どうぞ 創発現象の大雑把なイメージをつかむには、悪い本じゃない。でも、それだけ。特に、後半は同じような話で退屈する。最初の数章は、なかなか楽しめるんだけどね。ま、2000円以下ならハズレもOKと覚悟してて、時間もある人にだったら薦めるよ。 あとさァ、訳者の山形氏が、目立たない訳注でしきりに著者に突っ込み入れてるんだけど、山形氏ってこの本、評価してないでしょ。翻訳で食べてる訳でもないんだろうから(翻訳でも食べてる?)、自分が評価してない本を出すのはよくないんじゃないかしら。 まあ、超人的な語学力と速筆の人(みたい)だから、片手間にやっちゃったんだろうけど、批判があるんだったら、せめて訳者あとがきとかの目立つ場所に書いておいてよ。買うかどうか迷ったとき、この訳者が訳してるんだったらと、踏み切る人もいると思うぞ。実際、私は他の訳者だったら「購入する」をクリックしなかったな。 創発系カタログ 粘菌の動きから,脳の機能,果ては都市の発生や分化まで,さまざまなスケールで現れる何らかのパタンについて,自己組織化現象として眺めたもの。 これまで,何らかのパタンはその背景に,そのパタンを生み出す全体的な法則があると考えることが多かった。しかし,創発性概念の登場によってパタンは,それを構成する個々の要素が隣の要素との関係に基づいて振舞っているだけで,生まれてくるものだ,と見なされるようになった。 本書は,様々な創発現象を一切数式を用いずに紹介する。アリのフェロモンがコネクショニストモデルでの結合荷重と同じ意味として解釈できる,などの視点は,こうした領域横断的な読み物でしか得られないものだ。 しかし,創発現象のオンパレードに留まっており,筆者は本書で何が主張したかったのかが不明瞭で,読み進むうちに少々退屈を感じた。 それにしても,ミンスキーでさえ,ある創発系のシミュレーションを見て,そこにトップダウンに制御する力を見てしまうところからなかなか抜け出せなかったとの挿話は,人がいかに支配型ルールを志向するのかが伺われ考えさせられた。 少しでも創発系がらみのシミュレーションなりを経験した方には,より豊かな創発系に対するイメージを抱かせてくれるであろう一冊であった。
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